Tomoyasu Yokoyama Computational Materials Scientist's Pages

社会人博士論 Ⅱ ーなぜ博士過程に進学したかー

第2回は、どういう考えから私が社会人博士課程に進学するに至ったかについて 書きたいと思います。

なぜ社会人になっても博士課程に進学する必要があるの?

私が博士課程に進学したいと考えた理由は、企業研究者として活躍し続けるためです。

入社してしばらく研究開発に従事しているうちに、今後の自分の研究者人生に危機感を覚えるようになりました。 仮に社外の優秀な研究者が入社してきた場合、このままでは自分は彼らの下位互換になってしまうのではないかと考えたためです。

私が入社した2014年には、社内で材料シミュレーションができる人は数人しかいなかったため、 そのスキルを保有する私は組織の中で貴重な存在として、技術的な優位性がありました。

しかしながら、汎用的なシミュレーションツールが増え、使い方さえ覚えれば誰でもシミュレーションができるような現代、 その後やはり材料シミュレーションのスキルを保有する研究者たちが続々と入社してきました。 大学で准教授や助教のお仕事をされていたような、高い技術力をもった優秀な研究者がキャリア入社してくることも少なくなく、 学生時代に習得した私のスキルの優位性など、このままではすぐになくなってしてしまうと強く危機感を覚えました。

また、必要とされるスキルが変化してきていると実感したことで、さらに危機感が募りました。 材料開発のDX、いわゆるマテリアルズ・インフォマティクスの流行に伴い、 材料シミュレーションのスキルと台頭して機械学習のスキルも重要視されるようになりました。 テクノロジーは常に進歩しており、必要とされるスキルも変化します。 いつか機械学習の分野が飛躍的に発達すれば、材料シミュレーションが必要なくなり、私の保有するスキルが陳腐化するかもしれません。

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視点を変え、組織をマネジメントする立場から考えてみると、必要な技術が社内になければ、それを保有する研究者を社外から引っ張ってくれば良いだけなのです。 ゆえに、我々企業研究者が活躍し続けるためには、必要とされる技術を、学術業界と同等のレベルで習得し続け、 さらに彼らにはない別の技術的優位性を保有しなければならないのです。

ここで言う「活躍」とは「自分のやりたいことで成果をあげる」ことを指しています。 上司から言われたことにしたがって研究開発を進めることもできますが、 自分の幸福度を上げるためには、自分のやりたい研究開発を自由にできることが一番だと思います。 自分のやりたいことができる環境にするためには、 自分にしかできないことがある唯一無二の研究者にならないといけないと感じました。

こうした危機感から、博士課程に進学することで、自分の保有するスキルをアップデートしたい、 そして今後アップデートし続けられるようなきっかけにしたい、と思い至りました。 博士課程において、世界にまだない技術をゼロから自分の力で構築しそれを発信するプロセスを経験することができます。 その経験は、企業における研究開発においても必要なスキルを常にアップデートし続ける基盤になると考えました。 そうしたことを継続できれば、企業研究者として活躍できると考えました。

私は修士課程の時に、博士課程に進むか民間企業に就職するか悩んだこともあり、 就職前から博士課程に進みたいという思いはずっとありましたが、 上記のような危機感からその思いが強くなり、進学を決めました。

ではどのように社会人課程に進学したか?最終回は、社会人博士課程への進学を考えている方に向けて、 進学前に私がお勧めしたいことについて書きたいと思います。

社会人博士論 Ⅲ ー社会人博士課程進学前に何をすればいいかー